第34回(2024年度)
作品賞&個人賞
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作品賞
青春ジャック 止められるか、俺たちを 2
製作=若松プロダクション、シネマスコーレ
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主演女優賞
江口のりこ
「愛に乱暴」
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主演男優賞
遠藤雄弥
「辰巳」
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監督賞
井上淳一
「青春ジャック 止められるか、俺たちを 2」
呉美保
「ぼくが生きてる、ふたつの世界」
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新人監督賞
山中瑶子
「ナミビアの砂漠」
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新進女優賞
森田想
「辰巳」
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特別賞
池袋シネマ・ロサ
「侍タイムスリッパー」の上映をはじめ、インディーズ映画への長年の貢献に対して
ベストテン
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1
青春ジャック 止められるか、俺たちを 2
監督:井上淳一
出演:井浦新、東出昌大、芋生悠
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2
ぼくのお日さま
監督:奥山大史
出演:越山敬達、中西希亜良、池松壮亮
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3
ナミビアの砂漠
監督:山中瑶子
出演:河合優実、金子大地、寛一郎
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4
ぼくが生きてる、ふたつの世界
監督:呉美保
出演:吉沢亮、忍足亜希子、今井彰人
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5
悪は存在しない
監督:濱口竜介
出演:大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁
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6
ゴールド・ボーイ
監督:金子修介
出演:岡田将生、黒木華、羽村仁成
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7
Cloud クラウド
監督:黒沢清
出演:菅田将暉、古川琴音、奥平大兼
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8
違国日記
監督:瀬田なつき
出演:新垣結衣、早瀬憩、夏帆
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9
辰巳
監督:小路紘史
出演:遠藤雄弥、森田想、佐藤五郎
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10
カラオケ行こ!
監督:山下敦弘
出演:綾野剛、齋藤潤、芳根京子
碁盤斬り
監督:白石和彌
出演:草彅剛、清原果耶、中川大志
選考委員
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足立喜之(映画業界従事者)
選評
■個人賞
主演女優賞:杉咲花
主演男優賞:仲野太賀
監督賞:呉美保
新人監督賞:山中瑶子
■ベストテン
1位 トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代
2位 雨の中の慾情
3位 PERFECT DAYS
4位 ぼくが生きてる、ふたつの世界
5位 ゴールド・ボーイ
6位 風の奏の君へ
7位 あんのこと
8位 碁盤斬り
9位 青春ジャック 止められるか、俺たちを 2
10位 ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ
■コメント
大事な大切な想い出が、最も容易に甦る118分。鑑賞作品の順位という次元とは全く別の空間であったのは、初の体験だったかもしれない。人はそんな容易くタイムスリップ出来るものなんだ! -
阿部嘉昭(評論家)
選評
■個人賞
主演女優賞:上白石萌音
主演男優賞:藤竜也
監督賞:奥山大史
新人監督賞:近浦啓
■ベストテン
1位 ぼくのお日さま
2位 Chime
3位 大いなる不在
4位 つゆのあとさき
5位 Cloud クラウド
6位 違国日記
7位 悪は存在しない
8位 ブルーピリオド
9位 あんのこと
10位 一月の声に歓びを刻め
■コメント
三宅唱『夜明けのすべて』の上白石萌音は発作のときよりも普段のたたずまいがさらに素晴らしかった。そんな映画はほかにもある。『大いなる不在』の藤竜也はシマ性の認知障害が衝撃的だったが、そのことと作品自体の時制の飛躍が釣り合っていた。黒沢清『Chime』でも吉岡睦雄の異常性と作品自体の統合失調性が見事にリンク。『ぼくのお日さま』では中西希亜良、山寄晋平『つゆのあとさき』では西野凪沙、それぞれの悲劇性が忘れ難かった。 -
石飛徳樹(朝日新聞記者)
選評
■個人賞
主演女優賞:上白石萌音
主演男優賞:岡山天音
監督賞:山中瑶子
新人監督賞:空音央
■ベストテン
1位 ナミビアの砂漠
2位 HAPPYEND
3位 ぼくのお日さま
4位 悪は存在しない
5位 ラストマイル
6位 本心
7位 まる
8位 青春ジャック 止められるか、俺たちを 2
9位 徒花-ADABANA-
10位 お母さんが一緒
■コメント
2024は日本映画史の中で1951や1997などとともに、必ず暗記すべき重要な数字となるだろう。「ナミビアの砂漠」の山中瑶子、「HAPPYEND」の空音央、「ぼくのお日さま」の奥山大史ら、20代から30代前半の新鋭監督が3大国際映画祭で注目を集め、世代交代の大きな潮流を感じた。女優賞と男優賞は、精神のバランスを欠いた人物を、繊細かつ大胆に、そして愛情を込めて表現し尽くした2人の卓越した演技者に。 -
磯島治之(編集者)
選評
■個人賞
主演女優賞:杉咲花
主演男優賞:藤竜也
監督賞:呉美保
新人監督賞:山中瑶子
■ベストテン
1位 Cloud クラウド
2位 ぼくが生きてる、ふたつの世界
3位 カラオケ行こ!
4位 本心
5位 碁盤斬り
6位 違国日記
7位 大いなる不在
8位 ミッシング
9位 ぼくのお日さま
10位 どうすればよかったか?
■コメント -
伊藤さとり(映画パーソナリティ・映画評論家)
選評
■個人賞
主演女優賞:江口のりこ
主演男優賞:仲野太賀
監督賞:入江悠
新人監督賞:山中瑶子
■ベストテン
1位 あんのこと
2位 ナミビアの砂漠
3位 化け猫あんずちゃん
4位 ミッシング
5位 ぼくが生きてる、ふたつの世界
6位 Chime
7位 正義の行方
8位 大いなる不在
9位 徒花-ADABANA-
10位 アット・ザ・ベンチ
■コメント
2024年は新しい才能を大いに楽しむ年となった。山中瑶子(『ナミビアの砂漠』)、奥山大史(『ぼくのお日さま』)、甲斐さやか(『徒花-ADABANA-』)、空音央(『HAPPYEND』)を始めとする監督陣がオリジナル脚本で紡ぐ世界は、どれも社会へ投げかけるメッセージを独自の色で放っていた。これからも彼らのオリジナル脚本で映画製作が可能な日本であって欲しい。 -
大高宏雄(日本映画プロフェッショナル大賞実行委員長、映画ジャーナリスト)
選評
■個人賞
主演女優賞:江口のりこ
主演男優賞:遠藤雄弥
監督賞:呉美保
新人監督賞:奥山大史
■ベストテン
1位 碁盤斬り
2位 ぼくが生きてる、ふたつの世界
3位 Cloud クラウド
4位 ぼくのお日さま
5位 愛に乱暴
6位 箱男
7位 ゴールド・ボーイ
8位 青春ジャック 止められるか、俺たちを 2
9位 一月の声に歓びを刻め
10位 どうすればよかったか?
■コメント -
大塚史貴(映画.com副編集長)
選評
■個人賞
主演女優賞:髙石あかり
主演男優賞:池松壮亮
監督賞:入江悠
新人監督賞:奥山大史
■ベストテン
1位 ぼくのお日さま
2位 あんのこと
3位 ナミビアの砂漠
4位 本心
5位 青春ジャック 止められるか、俺たちを 2
6位 碁盤斬り
7位 ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ
8位 新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!
9位 アイミタガイ
10位 朽ちないサクラ
■コメント -
荻野洋一(番組等映像の構成・演出・映画評論家)
選評
■個人賞
主演女優賞:新垣結衣
主演男優賞:寛一郎
監督賞:小森はるか
新人監督賞:山中瑶子
■ベストテン
1位 ラジオ下神白ーあのとき あのまちの音楽から いまここへ
2位 違国日記
3位 ナミビアの砂漠
4位 愛の茶番
5位 プロミスト・ランド
6位 ルート29
7位 ビアニストを待ちながら
8位 一月の声に歓びを刻め
9位 化け猫あんずちゃん
10位 ぼくが生きてる、ふたつの世界
■コメント
選評:①②③④⑧⑨⑩と、選考した10本中7本を女性監督作品が占めることになった。ジェンダーの機会均等で世界最低水準だった日本も、映画界に限って見れば、少しずつではあるが是正されてきている。この流れは今年以降も続くだろうし、退行主義のトランプ、プーチンロシアに牛耳られた現行世界にあっても、この流れを止めてはならないと思う。さらに日本映画界に注文をつけるとすれば、女性監督だけでなく、クィアの映画作家にももっと良好な機会を授けるべきだ。 -
加藤敦(北海道新聞記者)
選評
■個人賞
主演女優賞:江口のりこ
主演男優賞:越山敬達
監督賞:入江悠
新人監督賞:奥山大史
■ベストテン
1位 ぼくのお日さま
2位 青春18×2 君へと続く道
3位 あんのこと
4位 ぼくが生きてる、ふたつの世界
5位 アイミタガイ
6位 九十歳。何がめでたい
7位 ラストマイル
8位 侍タイムスリッパー
9位 大いなる不在
10位 一月の声に歓びを刻め
■コメント
①と②は公開30年の「Love Letter」が、今もつくり手に与える大きな影響を示した。①は篠田昇の映像を想起させ、②はセリフで「Love Letterの世界だ」と言及され、自筆の絵がラブレター代わりだったラストまでもがオマージュだ。忍足亜希子の表情が豊かな④、松竹大船調正統の⑤、高齢者に対する先入観を吹き飛ばす⑥、TBS 製作、東宝配給のメジャーらしからぬ社会派の⑦、三島有紀子監督が自らの体験を昇華させた⑩が印象に残った。 -
上島春彦(映画批評)
選評
■個人賞
主演女優賞:満島ひかり
主演男優賞:池松壮亮
監督賞:七里圭
新人監督賞:太田達成
■ベストテン
1位 ピアニストを待ちながら
2位 ぼくのお日さま
3位 Chime
4位 すべての夜を思いだす
5位 悪は存在しない
6位 石がある
7位 はたらく組胞
8位 ラストマイル
9位 十一人の賊軍
10位 雨の中の慾情
■コメント
キネ旬(他)で一位を獲得した『夜明けのすべて』は意図的に外しました。こういう機会がなければ埋もれてしまう『石がある』みたいな映画を選べて良かった。四位と十位もそんな感じの企画か。本当は二十本くらい選べたらそういう類の作品に日が当たるのだろうが。こちらではアニメとドキュメンタリーも外してあります。むしろ高額予算映画を外すという選択肢もあるのだが、幅をどんどん狭めていくのもへンか、と。 -
河本清順(シネマ尾道支配人)
選評
■個人賞
主演女優賞:森田想
主演男優賞:井浦新
監督賞:近浦啓
新人監督賞:林知亜季
■ベストテン
1位 ぼくのお日さま
2位 青春ジャック 止められるか、俺たちを 2
3位 悪は存在しない
4位 東京ランドマーク
5位 Chime
6位 罪と悪
7位 湖の女たち
8位 大いなる不在
9位 辰巳
10位 愛に乱暴
■コメント
2024年は、1本ずつの興行力が弱くミニシアターにとって厳しい年でした。監督や俳優たちと出会いやきらりと光るその才能をスクリーンで目の当たりにしたときのあの喜びが、ミニシアターの厳しさを乗り越える見えない力になっているように感じている。見えない力に助けられるだけではなく、ミニシアター自身も彼らに負けないぐらい努力を続けなくてはいけない。 -
古賀重樹(新聞記者)
選評
■個人賞
主演女優賞:カルーセル麻紀
主演男優賞:藤竜也
監督賞:石井岳龍
新人監督賞:山中瑶子
■ベストテン
1位 ナミビアの砂漠
2位 箱男
3位 悪は存在しない
4位 ミッシング
5位 SUPER HAPPY FOREVER
6位 彼方のうた
7位 ルート29
8位 すべての夜を思いだす
9位 若武者
10位 ぼくのお日さま
■コメント
新世代監督が台頭した。ベストテンにあげた山中瑶子、清原惟、奥山大史が1990年代生まれ、五十嵐耕平、森井勇佑、二ノ宮隆太郎が80年代生まれ。濱口竜介、吉田恵輔、杉田協士も70年代後半生まれだ。そんな中で自主映画出身監督の草分けである石井岳龍が念願の「箱男」を完成させたことに拍手を送りたい。撮影所が崩壊して久しいが、20代から60代まで出自の異なる多様な才能がひしめく今こそ、日本映画の第3期黄金時代ではないか。 -
佐藤佐吉(映画監督・脚本家・俳優)
選評
■個人賞
主演女優賞:満島ひかり
主演男優賞:大美賀均
監督賞:濱口竜介
新人監督賞:川上さわ
■ベストテン
1位 悪は存在しない
2位 デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章
3位 はたらく細胞
4位 ラストマイル
5位 あの人が消えた
6位 地獄のSE
7位 Cloud クラウド
8位 アイミタガイ
9位 ナミビアの砂漠
10位 HAPPYEND
■コメント -
島村卓弥(文化通信社映画部記者)
選評
■個人賞
主演女優賞:小川あん
主演男優賞:草彅剛
監督賞:塚田万理奈
新人監督賞:佐藤そのみ
■ベストテン
1位 彼方のうた
2位 春をかさねて/あなたの瞳に話せたら
3位 満月、世界
4位 だれかが歌ってる
5位 石がある
6位 SUPER HAPPY FOREVER
7位 碁盤斬り
8位 PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~
9位 どうすればよかったか?
10位 霧の淵
■コメント
『満月、世界』の塚田万理奈監督が、子どもたちにカメラを向けた理由について、「残れ光」と書いている。職業柄、色々なリリースに目を通すけれど、これほどまでに、映画作家がカメラを手に取る、純然たる動機に観る前から心を奪われて映画館に駆け付けたことはない。2024年に傑出した10本は、もういない、もしくは、もうなくなろうとしている存在を繋ぎとめる装置として映画やカメラは誕生したのだろう、と思わせてくれた。確かにいた、確かにあった、と示してくれた。ひょっとすれば、まだいる、まだある、とさえ。 -
徐昊辰(映画ジャーナリスト)
選評
■個人賞
主演女優賞:忍足亜希子
主演男優賞:該当なし
監督賞:濱口竜介
新人監督賞:空音央
■ベストテン
1位 悪は存在しない
2位 ぼくが生きてる、ふたつの世界
3位 SUPER HAPPY FOREVER
4位 HAPPYEND
5位 ナミビアの砂漠
6位 Chime
7位 雨の中の慾情
8位 五香宮の猫
9位 マミー
10位 デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章
■コメント
2024年の日本映画界が傑作ぞろい豊作年でした。特に山中瑶子、空音央、奥山大史など数多くの若手監督が、カンヌ国際映画祭やヴェネツィア国際映画祭で活躍し、国際映画祭で日本映画に新しい風が吹きました。今後日本映画の可能性もどんどん広がっていくと期待しています。 -
進藤良彦(映画・ドラマ批評)
選評
■個人賞
主演女優賞:見上愛
主演男優賞:岡山天音
監督賞:瀬田なつき
新人監督賞:該当なし
■ベストテン
1位 ルックバック
2位 違国日記
3位 ラストマイル
4位 ゴールド・ボーイ
5位 笑いのカイブツ
6位 不死身ラヴァーズ
7位 カラオケ行こ!
8位 ミッシング
9位 ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ
10位 ペナルティループ
■コメント
世評の高い作品との相性がとことん悪い一年だったらしく、日プロの規約で除外される作品の影響がほとんどなくて、上位7本は「ヨコハマ」「キネ旬」への投票とまったく同じになった。キネ旬で入選した「ルックバック」「ラストマイル」は外そうかとも思ったが、上位3本への思い入れはいずれもベストワン級なので、ここは自分の素直な気持ちに従うことにする。 -
鈴木淳(映像企画・プロデューサー)
選評
■個人賞
主演女優賞:伊澤彩織
主演男優賞:吉沢亮
監督賞:呉美保
新人監督賞:奥山大史
■ベストテン
1位 ぼくのお日さま
2位 ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ
3位 ぼくが生きてる、ふたつの世界
4位 カラオケ行こ!
5位 キングダム 大将軍の帰還
6位 52ヘルツのクジラたち
7位 あまろっく
8位 青春18×2 君へと続く道
9位 八犬伝
10位 十一人の賊軍
■コメント
①新人二人の瑞々しい演技、静かな氷の張った湖水でのフィギュアスケートは心に残る名シーンである。
②本作が劇場映画3本目、全編溢れるハードアクション、主演二人の脱力した会話に拍手。
③ろう者とコーダーの息子の葛藤と優しさ、愛ある母親の絆に感動。主演女優賞の井澤は元スタントマン自ら活劇シーン見事に演じ切った。新人監督賞の奥山は脚本·撮影·編集を手掛け繊細な作品に仕上げた。 -
関口裕子(映画評論家)
選評
■個人賞
主演女優賞:上白石萌音
主演男優賞:永瀬正敏
監督賞:三島有紀子
新人監督賞:羽村仁成
■ベストテン
1位 箱男
2位 ゴールド・ボーイ
3位 一月の声に歓びを刻め
4位 きみの色
5位 正体
6位 HAPPYEND
7位 十一人の賊軍
8位 九十歳。何がめでたい
9位 碁盤斬り
10位 違国日記
■コメント
永瀬正敏を箱詰めにしたまま27年間放置された、1997年に製作されるはずだった『箱男』。今こそその決着をつけなければいけないときなのだと思う。『ゴールド·ボーイ』『一月の声に歓びを刻め』はもっと評価が高くてもおかしくない作品。『夜明けのすべて』は上白石萌音がいてこそ成立したアンサンブルなのだと思う。監督賞は、自らの企画で、この作品を作り上げた三島有紀子へ。 -
高崎俊夫(編集者・映画批評家)
選評
■個人賞
主演女優賞:カルーセル麻紀
主演男優賞:藤竜也
監督賞:三島有紀子
新人監督賞:藤野知明
■ベストテン
1位 一月の声に歓びを刻め
2位 青春ジャック 止められるか、俺たちを 2
3位 ぼくが生きてる、ふたつの世界
4位 どうすればよかったか?
5位 違国日記
6位 ナミビアの砂漠
7位 ルート29
8位 悪は存在しない
9位 大いなる不在
10位 ゴールド・ボーイ
■コメント
1,2位ともに極めて私的なモチーフを取り上げているが、フィクションとして完璧に仮構されており、見る者は、そこに生じたく余白〉をきちんと玩味できるのである。それは言い換えれば、創り手にとって、作品として成立させるために相応の時間が必要とされたことの証左でもあるだろう。逆に4位の「どうすればよかったか?」は、その極私的テーマがデビュー作にしてライフワークとならざるを得なかった、気の遠くなるような時間が生々しく刻印されており、その困難さがまさに名状しがたい作品となって結実したのだ。 -
谷岡雅樹(ノンフィクション作家)
選評
■個人賞
主演女優賞:森田想
主演男優賞:草彅剛
監督賞:小路紘史
新人監督賞:原廣利
■ベストテン
1位 拳と祈り 袴田巖の生涯
2位 52ヘルツのクジラたち
3位 辰巳
4位 碁盤斬り
5位 違国日記
6位 朽ちないサクラ
7位 あんのこと
8位 ルート29
9位 フィリピンパブ嬢の社会学
10位 正義の行方
■コメント
本当の幸せは、外に漏らさない。自分のうちにだけある。或いは、そのことに気づく同類の人間がいたら、その者と偶然出会ったとしても、そこで暗く、密かに、見えないところで、隠れて確かめ合う程度のことである。例えば荒井晴彦の映画のファンがいたなら、表で語らっているファンは、薄く語らっているに過ぎない。語ることのできる程度のことなのだ。本当のファンは表に出てこない。いつからか、かつての荒井晴彦は、当人の中にもいない。今年もまた、人に語られることのない奇跡を見つけることは出来なかった。 -
寺脇研(映画運動家)
選評
■個人賞
主演女優賞:江口のりこ
主演男優賞:寛一郎
監督賞:山嵜晋平
新人監督賞:山城達郎
■ベストテン
1位 シサム
2位 つゆのあとさき
3位 心平、
4位 ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ
5位 水深ゼロメートルから
6位 BISHU 〜世界でいちばん優しい服〜
7位 コザママ♪ うたって! コザのママさん!!
8位 ぼくのお日さま
9位 あまろっく
10位 違国日記
■コメント
わたしのベストテンも個人賞も、「既発表の映画賞の作品賞、及び主演女優賞、主演男優賞(一部、主演俳優賞)、監督賞を除いて」という本賞選考規程に全く抵触するところがない。ということは、各種映画賞の選定結果にまるで納得がいかないというわけだ。あんなもの選んで悦に入っていていいのかね…。まあ、それが現在の映画ジャーナリズムの本流であり、わたしのような時代遅れの老人が勝手に嘆いているだけなのでしょう。 -
中村勝則(映画ライター)
選評
■個人賞
主演女優賞:江口のりこ
主演男優賞:井浦新
監督賞:井上淳一
新人監督賞:奥山大史
■ベストテン
1位 青春ジャック 止められるか、俺たちを 2
2位 本心
3位 ルックバック
4位 ぼくのお日さま
5位 明日を綴る写真館
6位 からかい上手の高木さん
7位 あまろっく
8位 愛に乱暴
9位 ミッシング
10位 アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師
■コメント
基本的に本来の個人ベストテンとほぼ変わらず『青春ジャック~』は不動の1位であるが、『侍タイムスリッパー』(安田淳一監督)が異例の大ヒット=日刊スポーツ映画大賞作品賞に輝いたことで選考対象外になったのは残念。これこそ日プロが大いに評価すべき映画だと思ったからである。あとは日プロならではを意識して選出したつもりだが、今や数多いインディペンデント系もすべて追い切れず、近年はこれで良いのか模索しながら選んでいるのが正直なところでもある…(苦笑) -
長野辰次(フリーライター)
選評
■個人賞
主演女優賞:沙倉ゆうの
主演男優賞:倉本朋幸
監督賞:金子修介
新人監督賞:小林豊規
■ベストテン
1位 ゴールド・ボーイ
2位 ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ
3位 侍タイムスリッパー
4位 辰巳
5位 青春ジャック 止められるか、俺たちを 2
6位 毒娘
7位 サユリ
8位 雨降って、ジ・エンド
9位 静かに燃えて
10位 瞼の転校生
■コメント
興収的にも映画賞にも縁がなかった『ゴールド·ボーイ』だが、日本でこんなにもクールな犯罪サスペンスの傑作が誕生したことに驚いた。中国のベストセラー小説を沖縄を舞台に移し替えた港岳彦の脚本、10代のキャストをデジカメを使ったカメリハで育て上げた金子修介監督の演出を高く評価したい。金子監督の長男·金子鈴幸脚本の『瞼の転校生』も見応えがあった。昨年の映画界を席巻した『侍タイムスリッパー』の台詞「それは今日ではない」が胸に沁みた。時代劇だけでなく、映画評論の世界も今や風前の灯だ。映画評論に関わる人間は強い覚悟と新しい闘い方が求められている。 -
西田宣善(映画プロデューサー・監督[オムロ代表])
選評
■個人賞
主演女優賞:カルーセル麻紀
主演男優賞:井浦新
監督賞:金子修介
新人監督賞:藤田直哉
■ベストテン
1位 ゴールド・ボーイ
2位 青春ジャック 止められるか、俺たちを 2
3位 一月の声に歓びを刻め
4位 ナミビアの砂漠
5位 雨の中の慾情
6位 はたらく細胞
7位 箱男
8位 瞼の転校生
9位 ひとつの空
10位 極道恐怖大劇場 牛頭 GOZU
■コメント
①見終わって、『おもしろかった!』と叫びたい映画を優先的に選びたかった。その意味で、最初『極道恐怖大劇場 牛頭』を1位にしようかとも思ったが、さすがに製作年度が古いので、末尾に入れてみた。でも、これは、おもしろさピカイチ。 -
樋口尚文(映画評論家・映画監督)
選評
■個人賞
主演女優賞:森田想
主演男優賞:遠藤雄弥
監督賞:小路紘史
新人監督賞:該当なし
■ベストテン
1位 辰巳
2位 青春ジャック 止められるか、俺たちを 2
3位 ゴールド・ボーイ
4位 Cloud クラウド
5位 箱男
6位 HAPPYEND
7位 違国日記
8位 カラオケ行こ!
9位 心平、
10位 化け猫あんずちゃん
■コメント
他の賞ですでに称揚されている『ラストマイル』『ルックバック』『基盤斬り』のような作品と同様に、ここで選んだトップ3も破壊力ではなくオーソドキシーで選んでいることが驚きだ。残骸のような不出来な作品群が折り重なる上に、もはや「よくまとまった映画」が新鮮なのだ。できればこれが平均水準で、ここからさらにぶっ壊れた映画が目立つような状況が望ましいのだけれども。 -
藤永一彦(シネマリス・チーム)
選評
■個人賞
主演女優賞:山本奈衣瑠
主演男優賞:綾野剛
監督賞:五十嵐耕平
新人監督賞:磯部鉄平
■ベストテン
1位 SUPER HAPPY FOREVER
2位 カラオケ行こ!
3位 夜のまにまに
4位 どうすればよかったか?
5位 碁盤斬り
6位 Cloud クラウド
7位 辰巳
8位 祝日
9位 すべての夜を思いだす
10位 デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章
■コメント
見逃した映画もたくさんあるし、ここに挙げられなかった映画もある。エンタメ系、アートハウス系、社会派、評価評判は今は「わかりやすさ」「エンタメ」に寄って、そのカウンターで社会派·ヒューマンか。エンタメゆえに評価が低ければ、これは面白いと言いたいし、逆にわかりにくい?アート系でも面白ければ面白いと。結局は「映画として」刺激的で面白いか、私には映画美学校映画祭 2024の万田邦敏短編群が今も心に残る。 -
細谷隆広(トラヴィス)
選評
■個人賞
主演女優賞:高橋ユキノ
主演男優賞:遠藤雄弥
監督賞:井上淳一
新人監督賞:川上さわ
■ベストテン
1位 青春ジャック 止められるか、俺たちを 2
2位 化け猫あんずちゃん
3位 カラオケ行こ!
4位 つゆのあとさき
5位 辰巳
6位 サユリ
7位 碁盤斬り
8位 東京ランドマーク
9位 心平、
10位 極道恐怖大劇場 牛頭 GOZU
■コメント
「青春ジャック止められるか俺たちを2」との出会いはとにもかくにも、久しぶり私の青春時代が蘇り、尚も、ノスタルジックな物語でなく、永遠なる未完成なる人生の物語として、忘れられない。「さらば夏の光」と同じようにこの先、何度も観る事だろう。私自身の「中野武蔵野ホール青春」に落とし前を付けなければと、70歳を前に考える。 -
堀口慎(日本映画製作者連盟)
選評
■個人賞
主演女優賞:綾瀬はるか
主演男優賞:吉岡睦雄
監督賞:山中瑶子
新人監督賞:空音央
■ベストテン
1位 Cloud クラウド
2位 違国日記
3位 カラオケ行こ!
4位 悪は存在しない
5位 ルート29
6位 ナミビアの砂漠
7位 SUPER HAPPY FOREVER
8位 HAPPYEND
9位 すべての夜を思いだす
10位 一月の声に歓びを刻め
■コメント
監督賞は三宅唱が除外ということなので、多士済々な新人監督の中から山中瑶子を監督賞に。ただし、「ナミビアの砂漠」は全カット揺るぎない演出が成された「魚座どうし」の豊潤な30分に比べると、プロテスト的戦略が先に立った作品に思えた。新人監督賞は若松孝二が学園ものを撮ったかのような肌触りの「HAPPYEND」に。清原作品はスローシネマ展開の中で友人の霊が召喚されたような禍々しさ漂う花火のシーンが魅力的。他の候補は太田達成、蘇鈺淳、飯島将史。 -
松崎まこと(映画活動家/放送作家)
選評
■個人賞
主演女優賞:森田想
主演男優賞:遠藤雄弥
監督賞:井上淳一
新人監督賞:青柳拓
■ベストテン
1位 青春ジャック 止められるか、俺たちを 2
2位 辰巳
3位 雨の中の慾情
4位 ぼくが生きてる、ふたつの世界
5位 ゴールド・ボーイ
6位 ミッシング
7位 一月の声に歓びを刻め
8位 満月、世界
9位 フジヤマコットントン
10位 ラストホール
■コメント
『青春ジャック 止められるか、俺たちを 2』は、一生に1本しか撮れない快作!自らの「何者でもない」時代を見事に掘り起こして“映画”にした井上淳一監督に拍手を贈りたい。この作品と『辰巳』で、どちらを第1位にするか悩んだのだが、その分俳優賞は、『辰巳』のお2人に贈れたらと思う。『フジヤマコットントン』は、青柳拓監督のフラットな視点がしみ入る。今更“新人監督賞”でもないのかも知れないが…。 -
三留まゆみ(イラストライター)
選評
■個人賞
主演女優賞:芋生悠
主演男優賞:遠藤雄弥
監督賞:井上淳一
新人監督賞:塩田時敏
■ベストテン
1位 青春ジャック 止められるか、俺たちを 2
2位 ルックバック
3位 サユリ
4位 毒娘
5位 Cloud クラウド
6位 雨の中の慾情
7位 化け猫あんずちゃん
8位 雨降って、ジ・エンド
9位 辰巳
10位 りりかの星
■コメント -
森直人(映画評論家)
選評
■個人賞
主演女優賞:山本奈衣瑠
主演男優賞:岡山天音
監督賞:山中瑶子
新人監督賞:山中瑶子
■ベストテン
1位 ナミビアの砂漠
2位 青春ジャック 止められるか、俺たちを 2
3位 ぼくのお日さま
4位 HAPPYEND
5位 SUPER HAPPY FOREVER
6位 熱のあとに
7位 違う惑星の変な恋人
8位 ぼくが生きてる、ふたつの世界
9位 雨の中の慾情
10位 笑いのカイブツ
■コメント
日本映画の現在の質的充実は申し分ないように思います。むしろハリウッドの混迷やそこに連動した洋画興行の低迷が深刻。ただGEM standardのデータによると、映画を観る際に(配信ではなく)映画館を選んでいる割合では年代別で10代後半がトップ。確かに年間興行上位にはティーンムービーや推し活系が並んでいる。「映画館に行く」という習慣自体が消えていないのなら、そこから未来のステージに繫げる事はまだまだ可能な気がします。